4/19/2011

春の午後

土曜日の午後4時。
夏時間に変わったヨーロッパでは、日が暮れるのがぐんと遅くなるせいで、4時といっても日本でいえば3時ごろの太陽だ。
アレックスは幼なじみのマルコとテニスをしている。

あたしといえば、いつもは家にいるんだけど、今日は本を持参でついてきた。
こんないいお天気に家にいるなんてもったいない。



家族経営のこのテニスクラブには、テニスコートがたった2つと、サッカーフィールドが1つあるだけだ。管理人はここで軽食堂も兼ねている。


もと農家を改造したのだろう、大きな屋根の張り出した建物には、更衣室とカフェ、中と外にテーブルが置かれている。




あたしから見て、テニスコートは生垣を隔てたあちら側にある。萌黄色の新緑の枝の隙間を、アレックスとマルコの肩が通り過ぎる。

ラケットがテニスボールを打つ音が交互に聞こえ、合間合間に2人の声が割って入る。

「ごめん」「よっしゃ」「ナイス!」「うまい」「ごめん」
謝ってばかりいるのはうちのアレックスだ。あたしは、ちょっと笑う。


隣の牧場の方から、風が吹いてくる。牧場では牛が草を食んでいる。風に乗って、牛の首につけたベルの音が届く。牛の数だけある、金属のベルの音色。やけに元気な牛がいて、ひときわ大きなベルの音を響かせている。

少しだけ木陰の落ちる、絶好の場所にブランコがあったので、そこに座ることにした。

3つあって、高さが順々に高くなっている。真ん中のブランコの下の地面だけ、つま先で掘られた大きな穴があいている。
一番高いブランコは、子供用ではない。座ってみると、あたしでも足が地面につかなかった。しかし、これはいい気持ちだ。あたしはブランコをぶらぶらさせながら、本を読み始めた。

本は、イタリアのジャーナリストが書いたもので、ページのむこうにはナポリ湾がある。

そこに出入りする巨大貨物船舶が長い列を成している。ナポリ港で荷下ろしをした船舶は、船内の清掃を終えたところだ。ゴミはきれいにゴミ箱へ、つまり海に捨てられるのだという。一見美しいナポリの海には、黄色のスポンジ状の泡が岸にそって浮き、てらてらと七色に光る膜に覆われた水面をしているという。

早朝には、積荷が税関を通過する前に、小さなボートが沖に浮かんだ貨物船に向かう。スポーツシューズの最新モデルをボートに満載して、港に帰る。それらは非課税分だけ割安で販売され、ヨーロッパの市場に散って行く。(Roberot Saviano "Gomorrah" 第1章より)


本を閉じるとそこには、さっきと変わらぬ春の風景があって、あたしはほっとする。

ブランコの隣には滑り台がある。滑り台にまるで屋根を作るようにして、大きな木が立っている。葉の形はイチジクに似ていると思ったが、イチジクが果たして喬木だっただろうか?


側に寄ってみると、はたしてそれはイチジクだった。実がなっている。大人になってから好きになった果物。イタリア風に生ハムを添えて生のイチジクを食べるのもいいが、ドライフルーツにしたものにクルミを挟んで食べるのもおいしい。



管理人の軽食堂のテラスに、人が入り始めた。コップとイタリアのビール「モレッティ」の瓶を両手に持ったおじいさんたちだ。ピーナッツとピスタチオの殻を割りながら、長年こうして集ってきたのだろう。



アレックスとマルコがテニスを終えて戻ってきた。「引き分けだった」と嬉しそうなアレックス。テラスでビールを飲むおじいさんたちを見て、アレックスとマルコは顔をほころばせた。「飲んでもいいよ」とあたし。「どうする?」「飲むか」。
土曜日だしね。いいんじゃない。もうちょっとくらい、待ってあげよう。


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4/13/2011

ストリートガール ②

前回 ストリートガール①からの続きです。

photo by daniel nicholson

何十メートルか間隔を空けて並ぶ数人の女性たち。

長い髪をかきあげ、側を通る車に視線を投げかける。

意外や意外、年齢も国籍もまちまちで、
 東欧系の20歳そこそこの金髪女性がいるかと思えば、あたしよりはあたしの母に近いくらいの南米系女性もいる。

 ほかにアフリカ系、ぽっちゃり系と、顧客の嗜好を反映して様々な女性がいる。

彼女らの仕事は、そこに立って客を引き、取引が成立すれば客の自動車に同乗して営業に向かうことである。


彼女らの相場など、あたしの周囲の人間は知らないというが(知っていても言わないだろう)
アレックスは、うーん2時間50ユーロくらいじゃない? でもそんなの知らないよ、
と答えた。マクドナルドの時給が 7.5Euro だというから、自分を売るにしてはずいぶん安いものだ。 
もちろん、その半分かそれ以上は、元締めの懐に入る。

彼女らはグループに属しており、いちどきに数人、担当者の車で運ばれてくる。そして場所を与えられる。

たとえば、公園を囲む5本の道には、それぞれ縄張りがある。
南米系を揃えた道と、金髪女性が立つ道では当然元締めも異なる。
他人の道で商売をしてはならないのだ。

数時間しても客のつかない場合や、警察がパトロールしているという情報が入った時は、公園に引っ込むか、また車で回収されてゆく。


Abitare A Roma www.abitarearoma.net

彼女らは、与えられたその場を離れてはいけない。
数十メートル隣の同業者と身振りで話をするのも禁じられている。
携帯で話すのは禁止事項ではない、なぜならお客や監視員が連絡を入れてくることがあるから電話はいつでもONなのだ。

それにかこつけて、女友達と笑いながら話し込んでいる姿もよく目にする。
子供と話している母親だっている。
彼女らにも、私生活があるのだ。

写真素材 PIXTA
(c) 阿野陽写真素材 PIXTA

なにかの理由でその場を少しでも離れると、即座に監視員から電話が入る。
 
どこかから常に、監視されているのだ。

そういえば、道の反対側がちょっとした丘になっていて、そこの上の柵にもたれて、空を見つめている野球帽の男がいる。
彼女らが立つ日には、必ずいる。
だから、それが監視員だろうと私はにらんでいる。


また、同じ道を何度も何度も往復するスクーターの男がいる。この男も監視員だ。

写真を撮りたい、と思ってジョギングの足を緩めて携帯を取出す。
監視員も女性たちも、私に気づいていない。

携帯を構えていると、 すぐ側の木の陰から
犬の散歩をさせている濃い色のサングラスをかけた70すぎの老人が現れた。
私をサングラス越しに凝視している。

威嚇されたと感じて鳥肌がたった。こんな老人までが、ストリートガールの監視員だったのだ!

1年間、観察を続けた結果、1グループのストリートガールにつき、必ず2人が監視をしていることに、私は気がついた。
一人は女性たちに付きっきり、もう一人は遠くから監視しているのだ!

私はそれ以来、写真を撮ろうとするのを止めた。
彼女らは、歩道という棚に並んだ商品、逃げ出しはしないか、客とのトラブルはないか、監視する必要があるのだ。
それを阻む者に報復があるのは、間違いのないところだろう。

ストリートガール。車の陰のベンチに監視員がいて話をしている。

また、一台の車が止まった。
日曜午後4時である。

しばしの値段交渉のあと、その20代前半の背の低い黒人女性は、助手席に乗り込んだ。
運転席には30代とおぼしき黒人男性。サングラスをしている。
車は左に方向指示器を出して、その場を離れた。市内中心部へ向かう道を選んで走り出した。
夜はまだ、始まってもいない。


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4/11/2011

ストリートガール ①

いつもジョギングしている公園のふちを5本の道路が囲んでいる。
 
例の、移動遊園地の来る公園だ。

そこの歩道には、ストリートガールが立つ。




昼間の彼女らは、ジーンズやレザーパンツなど、露出の少ない服装をしている。
もちろん、警察車両が通りかかる可能性を考えてのことだ。

その地味な格好と、いくぶん年齢が高いせいで、初めはあたしは、彼女らも街娼だとは思っていなかった。
しかし、散歩しているにしてはその場を離れないのは不自然だ。
そして時々車両が停止して、窓越しに商談をしているのをみると、なるほどそうなのだ。

彼女らはタバコや携帯をいじりながら、手持ち無沙汰なふうを装っているが、
通りかかる車両には、長いまつげをしばたたかせてシグナルを送る。

驚くほど多くの車やバイクが、一番右の車線を走りながら、スピードを落として彼女らを吟味していく。

写真素材 PIXTA
(c) JayTurbo写真素材 PIXTA

そして夜の道路。
彼女らは、やはり夜の存在である。

時々行き交う車のフラッシュに照らされる彼女らは、超ミニのスカートに、ブーツといういでたちである。

ひとけのない山道に立つストリートガールたちは、もっと挑発的。
背中側は服を着ているのに、通り過ぎるバックミラーを見ると、前面のボタンがすべて開いている、なんてことも多々ある。

冬の凍えるような日。激しい雨の日。彼らはやはりそこに立っている。
立ちっぱなしのブーツの足を何度も組み替える。



車が投げかけるスポットライトが当たった次の瞬間には、闇がまた、彼女らを覆いつくす。
そしてまた車が通り過ぎる。
それの繰り返しなのだが、彼女らに光の当たる時間は、ごくごくわずかだ。



Photo by Ignacio Farina
・・・私はその道をジョギングしている。

「危ないから、やめなよ」と言われもした。

実際、一度なんて、汗をふきふき歩いていたら、クラクションを鳴らされてしまった。
彼女らの一人と間違われたのである。
それにしても、汗じみのついたジャージを見ればわかりそうなものだが・・・

危ないとわかってはいるのだが、同じ女性として、どうしても気になってしまう。
彼女らの勤務体系、取引のしかた、普段の生活・・・・。
もし私がジャーナリストだったら、彼らに密着取材をしたいほどなのだ!

「道路を走るのは明るい時だけにしてるから」
残念ながら、私に雑誌社の葵の御紋はないので、こうしてジョギングしながら毎回観察を続けているのである。



次回に続きます。
ストリートガール ①|  ②


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4/08/2011

愛とチョコレート

つい先日まで、うちの町で、チョコレートフェスティバル(サイトリンクあり)なるものをやっていた。


なんでもうちの町のチョコレート制作はスイスのチョコの歴史より長いとか、

板チョコを発明したのはうちの町だったとかいう伝説があるらしく、

うちの町は密かに「チョコレートの聖地」を名乗っているらしい。



実際、友人宅に食事に呼ばれていくときに、お菓子やアイスクリームの代わりに「チョコレートと甘い白ワイン」を手みやげに持って行く習慣があるくらいだ。


photo by Andrew Dickinson

それも、その辺のスーパーで買うのではない。

上の写真のようなパスティッチェリア(お菓子屋さん。仏:パティスリー)で、しかも自家製チョコレートを作っているような店で買って持って行くのです。

ちなみに上の店はおそらくペイラーノという老舗中の老舗。
チョコの形を見ると店名が分かってしまうワタシ♥

お味は・・というと、
どこぞの水色の箱に入ったブランドの生チョコレートなんて、
脱帽してその場で溶けてなくなるほどのおいしさ。

初めて食べたときには、あたしは悶絶して、床にぶっ倒れたくらいだ。

チョコレートがこれほどまでにおいしいとは、あたしは知らなかった。

言われてみれば、なにしろ毎日作り立て。
カカオ豆を挽くところから始まって、チョコに配合するクリームも新鮮なら、粒に入った中身も香り高いのだ。

そういうわけで、冬場なら、あたしは迷わずチョコレートをお土産にする。
(夏は溶けるからダメだけど)
こんな幸せ、一人で味わっちゃ勿体ないってもんだ。


さてさて。そんなわけで、チョコレートがおいしい、うちの町。

これは、今年のチョコレートフェスティバルの会場。
近寄ると、食べたり買ったりしてしまうので遠巻きにして見てきた。(賢明な判断。)




以下は借り物画像の、会場の様子。


photo by Alberto (picasa)



photo by Lingkai ZHU(Picasa)


そこで、買ったり食べたりせずに、あたしが唯一やってきたことが、こちら。

イタリアのお土産として有名な、バチ・チョコ(キスチョコ)のPeruginaという会社がやっていた「愛のメッセージ」。
Photo Cucina Doki から拝借
「横断幕に愛のメッセージを書いてください!」
お兄さんがニコヤカに笑いかけて来た。

 「何語で書いてもいいよ!」
おっ。いいね!!

「ただし・・・」とお兄さん。油性ペンをぶらぶらさせている。

「愛のメッセージ、だからね。必ず『キス=バーチョ』って入れること」

ほっほう・・・・。

あたし「ねえねえ、母国愛のメッセージでもいい?」

お兄さん「・・・うーん。・・・まあ、愛には変わりないからねぇ・・・」

と多少煮え切らない態度で、ペンをくれようとしない。

たしかに横断幕をチラリと見ると、
「永遠の愛をあなたに」

「いつまでもハネムーン」

「世界で一番愛してる!」

「あなたに100万回のキスを!」
チョコもとろけんばかりのメッセージばかり・・・。

あたし「あたし日本人なんだ。地震酷かったでしょ。だから応援メッセージ書きたいんだけど」

というと、 お兄さん、一気に同情してくれて

「そっか!大変だね。よっしゃ、でっかく書いておいで!!!」

と、あいなった。


というわけで、あたしからの愛のメッセージ。

いちおう、「たくさんキスを込めて」と付け加えておいた。(律儀。)

*ちょっとだけ説明*
キス1こ=バーチョ(bacio) キスたくさん=バチ(baci)

・・・後日。

その会場を通りかかって、横断幕がででーーーーん!とはられて、
あたしのメッセージが見られるか・・・と思ったら、

横断幕なんて、どこにもない。
みれば、バチ・チョコのコーナーは、先日のようなメッセージを書く人々でごった返している。

どうやら横断幕は、巨大巻物のようにグルグルと常に巻きとられ、毎日新しい白い面が上に出ている様子。


・・・あたしの愛のメッセージが、日の目を見ることはなかったようだ。



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