◆昔話と紅茶 前編◆
マージーがアンティークのティーカップにはいった赤い赤い紅茶を、銀のお盆にのせて運んでくる。
いい香りの湯気がお盆のあとからついてくる。
紅茶には輪切りのレモンが浸っている。
これは、ホテルに備え付けのカップとティーバッグ。こんなのでもおいしい。
金で縁取りのある大きな菓子皿にのった、チョコレートビスケットをマージーが勧めてくれた。
「ビスケット、取ってね」
「じゃあ、一ついただきます」とあたしがいうと
「あら。まずは二つ、お取りなさいな!」
茶色っぽくなったレモンをカップから取り出し、レモン用の小皿にのせて、隣へまわす。
マージーの紅茶は、いつもアールグレイだ。
紅茶のカップをサイドテーブルにおいて、膝の上には菓子皿とナプキンをおく。
紅茶をすすって一息ついたアレックスが、ジャックに訊く。
「確か元首相のウィンストン・チャーチルと会ったんですよね?」
「そうさ。敬礼されて、『任務、ご苦労であった!』って言われたのさ」と自慢気なジャック。
「チャーチルって、どんな感じなんですか?」
「こわくてまともに見てられなかったよ。下っ端の若造だったからな。大昔のことさ・・・でもな、」
と紅茶を一口くちに含んで、
「あの時、『ファロウ下士官、楽にせよ!』と命令されてから、わしはずっとそれに従って、ラクにしているんだよ」
「あの時、『ファロウ下士官、楽にせよ!』と命令されてから、わしはずっとそれに従って、ラクにしているんだよ」
「ははははは!」「おほほほほ、まあジャックったら。困ったものだわ。」
こういうイギリスのジョークを、あたしはジャックとマージーから数えきれないほど学んだ。
こういうイギリスのジョークを、あたしはジャックとマージーから数えきれないほど学んだ。
「いつまで空軍にいらしたんでしたっけ?」とジャックにまた質問。
「40で退役して、そのあと会社員をしとったよ。飛行機を作る側にまわったのさ」
この会社が、うちのアレックスが働く会社の前身なんだそう。だから、ジャックは会社の大先輩でもある、と。
「いつも寄ってくれてうれしいわ。またいらっしゃいね。」やさしいマージー。
帰りの車に乗り込んだあたしたちにむけて、 明かりのついた玄関を出て手をふっている二人に、
「また来ます!」とさけんだら、息が白かった。
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