3/10/2010

昔話と紅茶 前編

アレックスとあたしが何年も住んでいたイギリスの北の田舎まちに、あるおじいちゃんとおばあちゃんがいます。

名前はジャックとマージー。
御年86歳、結婚64年という、 人生の大先輩。

二人は、アレックスが昔一人で住んでた家のお隣に住んでいます。
住んでいる間は、月に2回くらいご挨拶に行っていました。

ご挨拶なんて言って、実は、あたしたちはマージーのいれる世界でいちばんおいしい紅茶も楽しみだったりして・・。

これは、ある秋のこと。

応接室に通されると、暖炉に火が入っていました。 この地方は10月になるともう寒いんです・・・


いつものとおり、暖炉の脇の肘掛けいすにご夫婦二人が座り、
あたしたちは暖炉の正面の大きくて座り心地のいいソファーをすすめられる。

暖炉の炭の赤い光が、白くなった灰のかげでちらちらしている。

二人とも、やさしくしわがよった白い肌をしていて、まっしろの髪がやわらかそう。
鼻や耳なんかはほんのりピンク。白くなったまつげの奥でうすい青色の瞳がキラキラしてる。
お元気でしたか?と訊ねると、
「あちこちは悪いけどなんとか生きとるよ」、なんて。

「最近、新聞をあけて最初に見るのが、おくやみ欄なんだ。誰が先に行ったか見るのさ。」
と、さっそくイギリスのブラックユーモアを出してくるジャック。


「紅茶、召し上がるわよね?」と静かに席をたつマージー。

ジャックは、イギリスのロイヤル・エアフォース、英国空軍の飛行機乗りだったんです。
「結婚しようって言ってた矢先に、戦争に行くことになってね。」

ドイツにいかれたんでしたか?とアレックスが訊くと

「うん。他にもあちこち行ったよ。南アフリカに1年、モルディブに3ヶ月、インドに18ヶ月・・・」
イギリスは、第二次大戦終結後も、植民地支配のための派兵をしていたそうです。


「ドイツにも行ったけど、地面は踏んでないのさ」といたずらっぽい顔でジャックがいう。
あたしがわからない顔をしていると
「行って、『任務を遂行して』帰ってきただけなんだ。」

手を飛行機にみたてて、爆弾を落とすふりをしてみせる。いたずらっぽい笑顔。

「あのころは、そういう時代だったんですよ」と、台所からマージー。
お湯が沸く音がしてくる。




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