「父母各位 ○○出版社 夏休み直前特別企画 『百科事典のご案内とUFO映画へのご招待』」
学校でもらったビラでクラスは騒然としていた。
これはアレックスが小学4年生の時の実話。
小学4年のぼくらにも、これが○○出版による、百科事典の販売促進のための企画だということは余裕で読めた。
それさえわかっていれば、出版社がタダでみせてくれる、話題のUFO映画を見る機会を逃すヤツなんていない。
逆に、これに参加しなければ、クラスでバカにされることは間違いない。
「オマエ行かなかったのかよぉ〜!?」って。
「辞典、買わないからな」「わかってるって、父さん」
日曜早朝の映画館の椅子は、近隣地区の小学4年生で埋められた。
時間から数分遅れて劇場が暗くなり、通常通りに映画が始まった。
開始30分ほどしてから百科事典の説明があるのだという。
(c) tantan|写真素材 PIXTA
タイトルは忘れてしまったが、そのUFO映画はけっこうな話題作で、最初の30分はあっという間に過ぎた。
(c) taka|写真素材 PIXTA
UFOから宇宙人が降りてくる・・・おおおお!と息をのんだところで、館内に明かりがついた。
劇場のうしろから、2〜30人のスタッフがあらわれ、
百科事典を手に座席の間を回り、辞典を子供2人に1冊ずつ配り始めた。
「ええー。これから○○出版の百科事典について説明を・・・」
スクリーン前ではスーツ姿のおじさん(15歳以上はすべておじさんに見える)が説明をしている。
ぼくらの頭の中は、さっきUFOから降りてくるはずだった宇宙人のことで一杯だったが、
百科事典をひっくり返したり、おしゃべりしたりして、時間をつぶした。
説明は1時間もつづき僕らはうんざりしはじめた。
「誰か、買うのかな。」「おれは買わない」「そうだよな」
あとでクラスに聞いたところでは、1人が買っただけだった。
大した販促企画だ。
大した販促企画だ。
それはおいといて。
辞典の説明が終わって館内の照明が落ち、映画が再び始まることとなった。
さっきの緑色の宇宙人のことで、ぼくらはこの1時間わくわくしっぱなしだった。
・・・ところが
映画は、宇宙人が人間に負けて、地球を離れていくところを映しているではないか。
もう、映画の「終わりの数分」の様相を呈している。
(c) bonchan|写真素材 PIXTA
ぼくらはショックで凍りついた・・・販促企画のあいだにも、映画は回り続けていたのだ。
映画館はぼくらだけのために貸し切りをするのを渋って、次の放映にあわせて映画を映し続けていたようだ。
つまり、1時間の百科事典の説明の間に、90分ほどの映画はおわっていたわけだ。
販促企画は失敗、子供が勝利したかに思えたが、漁夫の利を得たのは、なんと映画館だった。
エンドロールがながれる映画館を後にして、ぼくらは、
「もうこの企画とオトナは信用しない」とココロに誓った。
・・・今でも、アレックスの同年代には、この一件は伝説として語り継がれているとか。
ちなみに翌々年から、その販促企画はなくなったそうだ。
その後アレックス君はどうしていますか。大事な映画がみられなくてかわいそうでしたね。また続きをお願いします。 某片田舎より
返信削除とよとよさん
返信削除コメントとっても感激しましたw ありがとうございます。
アレックスくんは、その後成長してハラのでたおっさんになり、
でもやっぱり映画は大好きでよく見ています。
そうそう、おすすめの「夏の雪とぼくの恋」の登場人物も、じつはアレックスで、こちらも実話ですw