12/03/2010

彼女があたしにキスをした ③



前回までのお話はこちら 「彼女があたしにキスをした」   

下地クリームをぬっている細くて冷たい指先が、あたしのまぶたに触れる。

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化粧品の蓋を開け閉めする音を聞きわけながら、あたしは大理石の化粧台の冷たさと彼女の指と、どちらが冷たいか考えている。
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冷たい手だね」あたしが不平をいうと

「そんなこというと・・・!」

あたしのうなじに両手を押しつける彼女。

「きゃあ!」

つい目を開けると、彼女の瞳が思いのほか近くにあった。

「だめ、目をあけないで」くすくす笑う、ロシア語なまりの甘い英語。

チューインガムのイチゴのにおいのする息。


「きれいね」彼女はいう。

閉じたまぶたの裏側で、彼女は私の額にかかった髪を何度もすいている。

「黒髪って素敵だわ」

彼女のあたたかい息が耳の下にかかった、と思ったが、彼女は何も言わなかった。


「よし、できた。」仕上げに二人でブルガリの香水の霧の下をくぐった。


バスの時間だったので、あたしは玄関のドアを出た。
「じゃあね」

頬にあいさつのキスをしようとしたあたしより一瞬早く、彼女があたしにすっと身をよせた。

アナスタシアは、ちょっと背をかがめて、あたしを軽く抱きしめた。


あたしのくちびるの右端にくちづけて、「今日はありがとう、とても楽しかったわ」 と彼女はささやいた。

さっきあたしが彼女につけたリップグロスが、あたしのくちびるに残っていた。


思わず息をとめて一歩さがると、彼女の瞳は、曇り空を映してブルーの色を濃くしていた。

「また来週。学校でね」彼女はドアを急いで閉めた。

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彼女がうっかり間違って口に触れたのかと思うくらいの、甘くない、軽いキスだった。


そのくせ、キスするのが当然、といいたげな、何の迷いもない行為だった。

帰りのバスの2階席で、あたしはブルガリの香りとぐるぐる回る思考に埋もれた。


前回までのお話はこちら 「彼女があたしにキスをした」   

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2 件のコメント:

  1. おっしゃっていただけましたら、
    代わって差し上げましたものを…

    と、おっさんは思ったのでした^^

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  2. FREUDEさん

    ふふふ(^u^)
    そうでしょ、そうでしょ。

    というわけで、最終回につづきますよw

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