次の週、彼女は学校に来なかった。
一度機を逃してしまうと、彼女のキスについて茶化して訊くどんな台詞も思いつかなかった。
それ以来、しばらく彼女とふたりっきりになったことはなかった。
ちょうどテストやらバイトやらがたて込んでお互い忙しくなったせいだったと思う。
だから、あの不思議な午後のことは時々思い出したが、あたしは彼女にキスの理由をたずねたことはない。
ただ、ブルガリのBLVをかぐと反射的に、彼女を思い出すくせだけがついた。
その後、あたしは各地を転々としたが、わたしたちの友情は続いた。
彼女は今ではアンティーク商と結婚し、イギリスに永住している。
ところが、かれこれ10年も経った今になって、思わぬところで、彼女のキスの理由を知った。
ここイタリアで、ロシア人の女友達2人が親しげにキスをしているのを目撃したのがきっかけだ。
一気に思い出がよみがえった。
アナスタシア。
彼女の屋敷のドア、歩くときしむ階段の手すり。
彼女の部屋の重いカーテン、金ぶちの鏡のついた鏡台と、クリスタルのコットン入れ。
屋根裏部屋の動き出しそうな家具たち。庭の野うさぎ。
パーティーの夜の喧噪。大きな古時計の振り子とベルの音。
そして、ブルガリの香り・・・・
(c) taka|写真素材 PIXTA |
そして、あたしは知ったのだ。
彼女たちは、深い友情を示すために、同性友人のくちびるにキスをするということを。
今になってみれば、あの時あたしが一番最初に感じたのは、愛情というより友情だった。
その直感は実は正しかったわけだ。
それ以来、どこかでブルガリのBLVが香ると、
あの日、キスとあたしを残してドアを閉めた彼女が、
屋敷の2階に駆け上がって大きな窓を開け、さらに投げキッスを3回投げてよこした姿を思い出している。
(おしまい)
真相が分かってよかったですよね
返信削除誤解とまではいかなくても、
知らずに過ごした年月がもったいなかったかも知れません
でも今でも続く友情は、やはり本物だったのですね^^
FREUDEさん
返信削除>知らずに過ごした年月
確かに、もったいなかったかもしれないですね。
これが日本人だったら、なんとか訊く努力をしたかも。
あたしと彼女は外国人同士なので、わかりあえない部分の方が多いんですね。
だから、ちゅーのひとつや二つ、なんてことないというか、そこをカバーして友情を続かせていくんです。
おもしろいでしょ!
おつきあい頂いてありがとうございました。(拝)
え!?そっち系!?と思ってしまっても仕方ないですよね…。
返信削除でも、土地が違えば文化も違う。
ロシアって、そんな友情の示し方があるんですね。
私もドキドキしてしまいました!
okeisanさん
返信削除長い話を読んでくださった上に、コメントありがとうございます!
ちなみに、男性同士もやるそうですよw
確実に誤解しちゃいそうですねwww
オーストラリアにも、異なる文化みたいなもの、ありますか?
いつかぜひ、聞かせて下さいね!